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COLUMNコラム

2021.10.22

最低賃金アップで扶養の壁の調整が大変? そんな時に考えるべきこと

経営戦略

秋以降ズラリと並んだ人件費アップの要因

最低賃金がアップしました

この秋、10月1日から、最低賃金が上がりました。東京では1,041円になりましたので、なんと28円のU Pです。近年においても過去最高の上がり幅。最低賃金を下回っている事の無いよう、時給契約社員だけでなく、月給社員の時給換算額も確認してみましょう。

 

 

最低賃金引き上げの影響について、東京商工リサーチが行った全国企業のアンケート調査結果によれば、83.4%が「自社の人員戦略に影響を与えない」と回答、8割以上の企業が現状の雇用施策を維持するとしました。

 

 

一方で、5.4%は、非正規従業員を削減する方針であると回答、逆に非正規従業員を増員するとの回答も5.0%ありました。非正規雇用のメリットが希薄化する可能性もあり、業績が堅調な企業では、派遣社員やパートなど時給で雇用する非正規から正規雇用にシフトすることも考えられ、各社の戦略はそれぞれです。

 

 

出典 東京商工リサーチ https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210819_01.html

 

 

 

 

社会保険の適用が拡大します

実は、最低賃金U P以外でも、人件費に関わる大きな法改正予定が控えています。

 

それが、以下のような社会保険の適用拡大で、既に500人を超える大企業では実施されています。

 

【現状の加入義務】

週所定労働時間がフルタイム労働者の4分の3以上(30時間以上など)

 

【改正予定の加入義務】・・・段階的に、短時間勤務でもあっても加入の義務が生じます。

※中小企業への適用拡大は、従業員数100人超は、令和4年10月〜、従業員数50人超は令和6年10月〜

①週所定労働時間 20時間以上

②月額賃金が88,000円以上

③2か月を超える雇用見込み

④学生でない

 

 

将来の公的年金の財源が不足している事は、ニュースなどでもご存知の通りであり、この改正には支えられる人から支える側に回って下さいという国のメッセージが込められています。

 

 

個人で考えると、短期的には手取り賃金額が減るデメリットもありますが、長期的には公的な健康保険の安心や将来の年金が増えるというメリットもあります。

 

 

法定割増賃金率引き上げの猶予が終了します

中小企業には、月60時間以上の法定割増賃金率引き上げの猶予の終了も迫っています。

 

 

人件費が増える事にどう向き合うか?

今回の最低賃金の改定により、コロナ禍で人件費が上がる事は、会社にとって短期的には厳しい面もありますが、長期的には地域経済の発展や雇用管理雇用確保改善にプラスのイメージとなり、経営者の頑張りを後押しすることにもなる部分もあります

 

 

では会社は、人件費が増える事にどのように向き合えば良いのでしょうか?

 

 

最低賃金が上がることに関連して、先日こんな相談がありました。

 

 

1つめは「優秀でよく働いてくれる学生のアルバイトスタッフから、このままだとお父さんの扶養の範囲を超えそうだ、と言われている。最低賃金の対応をするともっと超えそうだが、どうしたら良いか」というもの。

 

 

2つ目は、「コロナ禍もあって、経済的に不安を抱えている家庭も多い。扶養の範囲内で働きたい主婦を中心に新たなチームを作ってパートの採用を考えている」というものでした。

 

 

皆さん、「扶養の壁」という言葉を聞いた事があると思います。税法上で言う103万円(収入)の壁と社会保険上で言う130万円の収入の壁のことで、これらを超えると、世帯の手取り金額が減ったり、自身で国民健康保険や国民年金に加入する可能性が出てきます。

 

 

そのため、パート・アルバイトが多い職場では、これまでも度々賞与や年末のシフトの調整などについても質問を受けていました。

 

 

扶養の壁を越えそうなときにどうするか?

1つめのご相談に関連して、最低賃金アップ後の賃金について簡単にシミュレーションしてみました。(賞与や時間外労働は考慮していません)

 

【1日4時間✖️5日のパートアルバイトについて】(学生でない場合)

月額)@1,041(東京都の最低賃金)✖️ 週20時間 ✖️ 4.35週 = 90,567

年間)@1,041(東京都の最低賃金)✖️ 週20時間 ✖️ 52.14週 = 1,085,555

結論)税法上の扶養の壁(103万円)を超えており、社会保険の扶養の壁(130万円)は超えてはいませんが、法改正後の社会保険加入要件を満たしています。

 

 

【1日5時間✖️5日のパートアルバイトについて】

月額)@1,041(東京都の最低賃金)✖️ 週25時間 ✖️ 4.35週 = 113,209

年間)@1,041(東京都の最低賃金)✖️ 週25時間 ✖️ 52.14週 = 1,356,944

結論)税法上の扶養の壁及び社会保険の壁(130万円)を現状既に超えています。

 

 

東京の例ではありますが、法改正後も考えると、今までの壁を死守するとなると、労働時間を減らすしかなくなってしまいます。同一労働同一賃金の観点からも、今後は特に、仕事の内容や責任の範囲などを考慮し、パートアルバイト社員に対しても、相違に応じた賞与を支払う必要があります。また、年末が繁忙期の職種などの場合には、シフトについても早めの対応が迫られます。

 

 

扶養の壁を越えそうだがどうしたらいいか? に対して、会社によっていろいろな考え方があり、正解はありません。どのような対応ができるか、いくつか考えてみましょう。

 

  • スタッフの労働時間を増やし、社会保険も適用させる
    この際、扶養の壁を超えてもらう代わりに、週30時間以上の契約に見直して、社会保険も法改正を待たずに適用させる。
    配偶者側の会社も、同一労働同一賃金をきっかけに、扶養手当や家族手当、住宅手当の考え方を見直す会社も増えており、今まで配偶者が受けていたメリットを享受出来ないケースも増えているからです。

 

 

  • 正社員への転換
    貢献度の高いパートアルバイトだけ、より責任のある正社員に転換するという考え方もあります。これは合理性が高く非正規労働者のキャリアアップやモチベーションの点でも良い施作ですが、基準や制度を事前に明確にして十分に説明するなど、納得性を高め、分断を招かないような入念な準備が必要です。

 

 

  • 採用人数を増やす
    1人1人の負担を増やすのではなく、パートアルバイトの採用人数を増やし、沢山の人数でシフトを回す事にするという考え方もあるかもしれません。

 

 

  • 賃金を上げて、優秀な社員を採用する
    もっと攻めて、「最低賃金とは言わず、1,050円以上払って、他社より良い人を採用する」という戦略もあるでしょう。

 

 

ほとんどの会社では、人件費が経費の多くを占めます。今回の最低賃金の大幅なアップや来年以降の社会保険料の適用対象の拡大なども、人件費に大きな影響があることが予想されます。制度が変わるからといって、その時になって慌てて対応することがないように、自社のビジョンや明確な人事戦略にあわせて事前にしっかり準備する。つまり制度改定をうまく使って人件費戦略を定期的に見直してみる事を強くオススメします。

 

 

どうやって人件費戦略を見直すか?

そのためにはどうしたら良いのでしょうか。

 

 

会社の人件費に直結する事なので、もちろん会社のビジョンや明確な人事戦略、数値目標があれば、それを社員に分かりやすく示す事が大切です。同時に、パートアルバイト労働者であっても、会社に貢献したいと思っていたり、仕事以外でも大切にしている事がある人も多いです。

 

個人にとっては、育児、介護や病気など個々の事情により、その時のライフステージによってどんな働き方をしたいかは変わってくるでしょう。会社としては、主婦だから扶養内で働きたいに違いないとか、男性だからバリバリ働きたいだろうとか、高齢者だからゆったり働きたいに違いない、などと思い込むことなく、社員一人一人がその時々のライフステージでどんな働き方をしたいのかを知ることが大事になってきます。

 

また、法改正など環境の変化に対しては、内容、時期などを早めに把握して、対応をどうするか、人件費戦略をどうするかなどしっかり準備できる期間があったらいいですね。

 

 

ご相談があった1つ目の会社さんは、早速本人と面談するとおっしゃっていました。2つ目の会社さんは、これらの法改正予定をご存知でなかったため、環境の変化も考慮して、もう1度自社の戦略を見直すとのお話でした。

 

 

私は最近、老後に必要な資金を計算してみる機会があったのですが、夫の将来の年金額が正確に出せなかったため、もう少し今後の人生設計について家族とも話す必要性を感じたばかりです。

 

 

また、最近部下との面談で、時間に対する考え方の違いを受け入れました。ワークライフバランスは、その時点でのバランスだけを考えがちですが、もっと一生のうちでの長期のバランスを考えてみても良い気がしています。

 

 

環境も刻々と変化しますが、個々の状況も変化しています。賃金は労働者のモチベーションの1つですが、社員の抱える背景も想像すると、見えてくるものがあるかもしれません。

 

 

少なくとも年に何度かは、通常の面談とは別な形で話し合いの機会をもち、その時その瞬間の最適を求めるだけでなく、少し先の未来も考慮して全体の最適を探していけると良いなと思います。

 

 

参考

最低賃金チェック方法
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-13.htm

社会保険適用拡大特設サイト

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

 

鎌田 良子

鎌田 良子

特定社会保険労務士

担当地域:全国

週4正社員®︎制度を導入する社労士法人に勤務し、自ら新しい働き方を実践中。法律論だけでなく、経営者が大切にしている事を軸に、社員の強みが活かされ、会社が発展するしくみ、最適なアプローチを提案しています。