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2023.07.17

人的資本に関する情報開示の義務化はいつから?情報開示するべき19の項目と今後の対応について解説

人的資本

企業の技術や知識、経験、創造性、意欲など、従業員が持つ様々な資源を指す「人的資本」。これらに関する情報開示の義務化が2023年度に始まることが発表され、企業にとって人的資本開示の重要度が高まっています。

この義務化に伴い、開示すべき19の項目が示されており、これらの項目には人的資本の評価に関する情報などが含まれます。

今後、人的資本情報開示は透明性を高め、企業の価値評価に影響を与えることが予想されるでしょう。

この記事のポイント

  • 人的資本情報開示の時期
  • 人的資本の情報開示が必要な理由
  • 人的資本の情報開示をする項目

企業の成功には、人的資本という大きな要素が必要不可欠となります。対象企業では人的資本の開示は必須となりますので、本記事の内容を参考に対応してください。

人的資本に関する情報開示の義務化の時期

2022年11月時点では、人的資本情報の開示が義務化される時期は正式に決定されていません。しかし金融庁は、段階的に適用を開始し、早ければ2023年(令和5年)3月期の有価証券報告書から開始すると述べています。

この「人的資本情報の開示」には、冒頭でもお伝えした通り、企業の技術や知識、経験、創造性、意欲や、従業員が持つ様々な資源(育児休業の取得率、男女間の賃金差、女性管理職の比率など)が含まれてきます。

それに対応する形で、企業は自社の経営戦略や課題と整合性を意識しつつ、具体的かつ分かりやすく情報を開示することが求められるでしょう。

人的資本開示が義務付けられる企業

人的資本情報の開示は、「有価証券報告書の提出義務がある企業」に義務づけられることが決定しており、対象企業は約4,000社。金融商品取引法第24条に規定される「有価証券を発行している企業」が想定されており、毎年事業年度終了後3か月以内に、内閣総理大臣および取引所へ有価証券報告書を提出しなければなりません。

なお、提出義務がある企業が報告書を提出しない場合は、懲役あるいは罰金(または過料)を受けることになります。

ただし特定の要件を満たす企業は、提出義務が免除されます。免除の要件は、以下です。

  • 上場していないこと
  • 店頭登録されていないこと
  • 募集や売出しに「有価証券届出書」「有価証券通知書」を提出したことがないこと

自社が有価証券報告書の提出義務の条件に当てはまっているのかを、事前に確認しておきましょう。

人的資本の情報開示が必要な3つの理由

なぜ人的資本の情報開示が必要になったのでしょうか。主な3つの理由をお伝えします。

理由1:企業の市場価値の構成要素が無形資産に移行したため

人的資本に関する情報開示要求は、証券市場を中心に注目されており、投資家たちにとって、各企業の人材戦略や人事施策が、投資判断においてますます重要な役割を担っていることが認識されています。

これは、企業の市場価値の構成要素が、有形資産(物や金銭)から、無形資産に移行しつつあるためです。

特に、グローバル企業においては、8割以上が無形資産や無形要素によって構成されるようになるというレポートがあり、研究力、著作権、ブランド、アイデアや情報など、「ヒト=人的資本」の力が、企業の価値や競争力に大きく影響していくといわれています。

理由2:EGS(長期的な資産運用)投資の重要性

ESG投資の重要な要素の一つは、企業のサステナビリティ(持続可能性)を評価することであり、最近では、その重要性がますます認識されています。ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮する投資です。

企業の人的資本は、「S(社会)」に関連する要素の一つと位置づけられており、投資家は、財務状況と同様に、人的資本の情報を確認して企業への投資判断を行っています。

短期的には人的資本の状況が堅調でも、人材育成がおろそかになっていたり、人材戦略がビジネスモデルや経営戦略に合っていなかったりすると、長期的にはリスク要因となる可能性があると認識されています。

結果として、社会に関するレーティング(格付け)が高い企業は、株価のパフォーマンスが高い傾向があるとされており、人的資本はますます企業価値に、直接的に影響を与える重要な要素となるのです。

理由3:情報開示に対するニーズの増加

投資家や市場にとって、企業の「人的資本」に対する開示が注目されています。

投資家に対するアンケート調査によると、⽇本企業が中⻑期的な投資・財務戦略において重視すべきものとして「⼈材投資」を挙げる投資家が67%という数字が出ています。 

出典:人的資本に関する指針

また、市場のニーズに合った開示は企業価値やブランディングの向上につながります。

最近では就職活動においても、企業のESGへの取り組みは求職者にとっての重要な判断材料の一つです。就職活動を行う学生にとっては、自分が入社する可能性がある企業がどのような人事施策を取っているかは気になるポイントです。

学生にとってみれば、適性診断を用いて個人の強みに応じた役割を任せていること、画一的なノルマではなく実力に応じた目標設定が行われていることなどは魅力に映ると思います。なぜならそれらの施策は、それだけその企業が個人に重きを置いている証だからです。

できるかぎり活躍の場を用意し、その人の強みを活かしてもらおう。企業にそういった意識がなければ今挙げたような施策は実施されません。

またビジョンやロードマップが明確であったり、働く人の価値観や趣味、人柄が動画などを通じてリアルに分かることも、学生の判断に大きく寄与すると思います。

例えばiPadの紹介で「文字が書けます、動画が見れます」と言われるのと、「恋人と一緒に公園のベンチでも、ソファーに寝転がりながらでも、映画が見れます」と言われるのとでは、まったく印象が違うと思います。人的資本の開示もこれと同じです。

やりがいを求める昨今の学生にとって、仕事の充実度は会社を選ぶうえで欠かせない項目です。つまり「自分の仕事や人生が充実しそうだ」とイメージしてもらえる人的資本の開示こそ、最大の採用戦略とも言えるわけです。

人的資本の情報開示の歴史

人的資本の情報開示は、急に始まったわけではなく2017年から開始しました。ここでは、簡単な歴史的流れについて説明します。

【歴史の流れ】

  • 2017年…ヨーロッパで従業員500人以上の上場企業に対して人的資本情報の開示が義務化される
  • 2018年12月…ISO30414が制定される
  • 2020年~…米国でも人的資本情報の開示が義務化される
  • 2021年6月…コーポレートガバナンスコードが改訂
  • 2023年3月期…人的資本情報の開示が義務付けられる方針が発表される

2018年12月にISO30414という指標が制定され、非財務情報のうち無形資産の一つである人的資本についても情報開示が求められるようになりました。

ヨーロッパでは2017年度から従業員500人以上の上場企業に対して、人的資本情報の開示が義務化され、米国でも2020年度から同様の義務化が開始されています。

日本でも2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンスコードにより、以下のように示されました。

「人的資本や知的財産への投資等について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」

2023年3月期の有価証券報告書から、企業に人的資本情報の開示が義務付けられる方針が検討されています。

人的資本の情報開示をする項目

政府は2022年8月末、企業に対して人的資本の開示を推奨する『人的資本可視化指針』を発表しました。
海外の指針を参考に、7つの分野にわたって19項目の開示項目を挙げています。ただし、この指針自体は企業に開示義務を課すものではありません。

しかし、金融庁は2023年度に有価証券報告書に一部の人的資本情報の記載を義務化することを発表しており、今後、企業にとって人的資本開示の重要度が高まることが予想されます。

育成リーダーシップ、育成、スキル/経験、従業員一人当たりの研修時間や研修費用など
エンゲージメント従業員満足度
流動性離職率、離職率、採用・離職コスト、人材確保・定着の取り組み例など
ダイバーシティ男女間の給与の差、育児休暇後の復職率・定着率、男女別育児休暇取得社員数など
健康・安全労働災害の種類や発生件数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進、ニアミス発生率など
コンプライアンス
・労働慣行
深刻な人権侵害の件数、苦情の件数、業務停止件数、差別事例の件数・対応措置など

参考:『人的資本可視化指針』|内閣官房

人的資本情報開示ガイドラインとは

「人的資本情報開示ガイドライン」とは、2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表したISO30414のことを指します。

ISO30414は、内部および外部のステークホルダーに対して人的資本に関する報告を行うための指針。労働力の持続可能性を支援するため、組織が人的資本にどのように貢献しているかを考慮し、透明性を高めることが目的です。

また、事業の種類、規模、性質、複雑さにかかわらず、あらゆる組織に適用可能なガイドラインとして位置付けられています。

参照:人的資本経営|経済産業省

この記事のまとめ

  • 人的資本情報開示とは、企業が従業員の人材育成方針や育児休業取得率、男女間の賃金差、女性管理職の比率など、人的資本に関する情報を開示すること
  • 人的資本の開示は、会社の強み、従業員の強みを開示すること
  • 人的資本が開示されると横のつながりも生まれやすくなり、信頼関係を築くきっかけにもなる

石見 幸三

石見 幸三

株式会社コーチングファームジャパン代表取締役

担当地域:全国

チームビルディングコンサルタントとして組織開発に取り組んでいます。関わった会社は結果として働き方改革が進む事が多いと実感しています。そんな成果の出る働き方改革を進めていきたいと思っています。

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