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COLUMNコラム

pawahara

2020.08.03

うちの会社は大丈夫?―パワハラ防止法施行

ハラスメント

みなさまの職場はパワーハラスメントを始めとした、ハラスメントの対策を行っているでしょうか。
近年ではセクハラやモラハラ、パワハラに対してSNSでの暴露が活発になり、経営者も従業員も強い関心を示しています。

自分の会社は大丈夫と思っていても、どんな言動が該当するのか、何を基準にハラスメントと判断するのか。
正しく理解されている方は少ない状態です。

この記事では、訴えられてからでは遅い「パワハラの定義」についてと「パワハラ防止法」と企業の現状について詳しく解説をします。

この記事のポイント

  • パワハラ防止法のデータから見る、企業のパワハラ実態調査
  • 見落としがちな、パワハラの3要件と6つの分類
  • 企業で実践したい2つのパワハラ対策

2020年6月、パワハラ防止が事業主の義務になりました

パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、「職場でおこるいじめや嫌がらせ」のことです。

このパワハラを防ぐための法律が、2020年6月1日(中小企業は2022年4月)から施行され、職場におけるパワハラ対策が事業主の義務になりました。

「うちの会社は大声で怒鳴ったり殴ったりする社員はいないから大丈夫だよな?」と思っていませんか?

本当にそうでしょうか?

実際には

「なんだ、こんな簡単なこともできないの?」

などと毎日のように言ったり

特定の人を毎回会議に参加させなかったり
本人が嫌がっているのに飲み会に行くのを無理強いする

といった行為でも、
場合によってはパワハラとなる場合もあるのです。

3社に1社でパワハラが起こっている?

パワハラに関する相談は、年々増えています。

平成30年度には『いじめ・嫌がらせ』に関する相談件数は、82.797件と過去最高となり、他の相談内容の倍以上になっています。

出典「 平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況(厚生労働省)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000213219_00001.html

また、平成28年に厚生労働省が行った「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、従業員向けの相談窓口で受ける相談で最も多いテーマがパワハラです。

実に3社に1社でパワハラに関する相談が寄せられているのです。

出典「平成28年 職場のパワーハラスメントに関する実態調査(厚生労働省)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000163573.html


パワハラ問題は業績悪化や人材流出の原因になり得る

このように、職場でのパワハラの問題は、いつどこで起こってもおかしくありません。

職場にパワハラが与える影響は深刻です。パワハラを受けた人は、人格や尊厳を傷つけられたり、仕事への意欲や自信をなくしたりして、心の健康の悪化につながり、場合によっては休職や退職に追い込まれることもあります。

パワハラを行った人も、社内での自分の信用が下がり、自分の居場所が失われたり、懲戒処分や訴訟のリスクを抱えることにもなりかねません。職場でいじめや嫌がらせが日常的に行われることで、職場の雰囲気が悪くなり、働いている人の仕事への意欲が低下し、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼします。

企業にとってパワハラは、業績悪化や貴重な人材の流出につながりかねない、放ってはおけない課題なのです。

今回は、企業がパワハラ防止に取組むにあたって知っておく必要がある、どんな行為がパワハラに該当するのかについて「パワハラ防止法」と「職場におけるハラスメント関係指針」(以下、指針)の内容を整理して解説します。

パワハラの定義~3つの要件と6つの類型

(1)パワハラの3要件

今回の法改正で、初めてパワハラが法律で定義されました。パワハラとは、職場において行われる言動のうち、以下の3つの要件の全てを満たすものです。

・優越的な関係を背景としたもの

・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

・労働者の就業環境が害されるもの

この中でパワハラかどうかの判断で特に重要になるのは、「業務上必要かつ相当な範囲で行われたかどうか」です。
指針には、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動の例として、以下の3つが挙げられています。

・業務上明らかに必要性のない言動

・業務の目的を大きく逸脱した言動

・業務を遂行するための手段として不適切な言動

つまり、教育・指導の名目で行われても、業務上の行き過ぎた言動は、パワハラとみなされる可能性があるということです。

(2)パワハラの6つの類型

では具体的にはどんな行為がパワハラになるのでしょう?

厚生労働省は、代表的なものとして以下の6つの行為を挙げています。ただし、パワハラに該当するかどうかは、様々な観点から総合的に判断され、これら以外にもパワハラと認められるケースがあるので注意が必要です。

・身体的な攻撃・・・殴る蹴る、物を投げつける、など
・精神的な攻撃・・・相手の人格を否定する言動、長時間に渡る厳しい叱責や、威圧的な叱責、相手の能力を否定して罵倒する、など
・人間関係からの切り離し・・・職場からの隔離。集団で無視する、など
・過大な要求・・・能力とかけ離れた高い業務目標を課し、未達の場合は叱責する、私的な雑用を強要する、など
・過小な要求・・・能力や職務とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、嫌がらせのために仕事を与えない、など
・個の侵害・・・プライベートなことに過度に立ち入る、病歴等繊細な個人情報を他の労働者に暴露する、など

どんなパワハラ対策をすればいいのか?

企業側に求められるパワハラ対策は大きくわけて2つです。

(1)労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

企業の相談窓口を作り、内部または外部の専門家などの担当者を置き、そのことを労働者に知らせます。

また、担当者が適切に対応できるように、マニュアルを作り、担当者への相談の研修を行い、相談内容や状況に応じては人事部門との連携が取れるよう体制を整えます。

(2)その他の雇用管理上必要な措置

職場で起こりうるパワハラ行為や、パワハラを行ってはならない等企業の方針を明確にし、労働者にはその内容を、就業規則への記載、社内報での広報、パワハラの研修の実施等により徹底させます。

また、被害を受けた労働者に対するケアや再発防止について、適切な措置をとることも必要です。

パワハラに対して総合的な対策をしようとする場合、企業規模が小さく、相談窓口やその担当者を決める余裕がない中小企業では、内部登用だけに頼るのではなく、難しい部分は外部の専門家に対応を委託するのが効率的でしょう。

まとめ

パワハラ防止法では、パワハラそのものに罰則規定が設けられたわけではありませんが、厚生労働大臣の助言や指導、および勧告の対象となり、勧告に従わない場合は、企業名が公表されることもあります。

社員がパワハラを起こすと、その人がどんなに優秀で会社に必要でも、辞めてもらわざるを得なくなります。また、昨今では被害者がパワハラの実態をSNSなどで発信することで、企業の信用が損なわれる可能性もあり、優秀な人材がライバル企業に流れてしまう可能性も考えられます

ある行為がパワハラかどうかは、様々な観点から総合的に判断されるため、特に上司となる管理職層にとっては、指導や指示とパワハラとの線引きに難しさを感じる人も多くなるでしょう。

パワハラについての理解を促す研修を実施するなどして、どのような行為がパワハラに該当するのかを、一人一人が理解しておくことが必要です。

しかし、研修をしても、一番問題がありそうな人が、自分に問題があることに気がついていない、という声を聞くこともあります。
自分がパワハラをしているかもしれない、と気がつかない人は、日々の指導、指示の中で意図せずパワハラをし続けることになり、企業にとっては大きなリスクとなります。

なぜそのようなことが起こるのでしょうか?

「人と自分は違う」を社員全員が理解する

それは人と自分は違う、ということにその人が気がついていないからです。

人と自分は感じ方や考え方が違うので、自分と同じように相手が感じたり動いたりすることはありません。また、自分と相手との関係によって、同じことをしても相手の受け取り方は変わります。

つまり、社員一人一人が「人と自分は違う」ということを知ることが、パワハラ防止の第一歩になります。

パワハラに関する正しい知識を身につけるだけでなく、人と自分の違いを知ってお互いに尊重し、ふだんから社内でコミュニケーションをとって職場の人間関係をよくすることが、パワハラを起こさない組織を作ることにつながると私たちは考えています。

この記事のまとめ

  • パワハラは業務悪化や人材流出の原因になるため、必ず取り組むべき問題
  • パワハラを起こさないためには何がパワハラになるか理解を深めること
  • パワハラが起きる原因は「人と自分は違う」を理解していないため
山内 聖堂

山内 聖堂

山内経営会計事務所代表

担当地域:全国

経営目標(計画)の実現には組織開発が必須であると痛感し、組織開発コンサルティングを始める。一人ひとりの強みを経営に活かすことにこだわって、中小企業の経営参謀として活動しています。