働き方改革関連法が2019年4月から施行されました。
肝いりは時間外労働の上限規制(中小企業は2020年4月~)です。
今回の改正により、改正前は実質的には上限がなかった時間外労働に上限が設けられ、違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
労働時間の上限規制のポイントは、
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する必要があります。
また、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度です。とはいうものの、残業を減らそうと現場も努力してはいるけれどなかなか思うようにいかない、
というのが実情ではないでしょうか?
この記事では働き改革の導入が叫ばれてかなりの時間が経つものの、なかなか減らない労働時間を減らすための方法と実態について紹介します。
この記事のポイント
- 働き方改革と労働時間に対する実態がわかる
- 長時間労働が減らせない原因は、現場の社員一人一人が引き起こす
- 成果は右肩上がりにはならない?タックマンモデルで見る成果の推移
■労働時間は実は減っていない
日本における年間実労働時間(2014年調査)は下図左側の図に示すように年々減少傾向にあるように見えますが、右図からわかるようにその実態はパートタイム労働者比率が増えていることによるものです。
一般労働者の総労働時間の推移は横ばいです。
時間外労働の実態としては、週60時間以上(=週の時間外労働が20時間以上)の割合が8.2%となっています。
30代男性に限れば16%程度、つまり6人に1人が週60時間以上働いているということになります。
■経営者として長時間労働をどうとらえるのか?
では16%という数字は大きいのか、小さいのか?
私は、比率で語ることに意味はない、と考えています。
「休日労働含を含む時間外労働時間が単月100時間未満、複数月平均80時間」というのは、従業員がメンタル疾患(うつ病等)になったとき、労働に起因する(つまり労災)と判定されるかどうかの判断基準と一致しています。
つまり、従業員を長時間労働によってメンタル疾患にさせるという不幸なことを起こさないために労働時間の上限を守る、ということが最低限の経営者の務めではないでしょうか?
私の経験から言えることとして、長時間労働が常態化している職場では、
・メンバー同士が不仲で人間関係がギクシャクしている
・チーム内で情報共有ができておらず余分な仕事、ちぐはぐな仕事が発生している
・仕事ができる有能なメンバーに仕事が集中している
・それぞれがあまり他人の仕事に口をださないようになっている
・メンバーのいさかいが増える
・小さなミスが増え、時には大きなミスも目立ってくる
・さまざまな理由で休むメンバーが多くなる
・リーダーを信頼していない、頼りないと感じてくる
・戦力となっているメンバーがさまざまな理由で辞めていく
というような状況になっていることが多いように思います。
このような状況では、生産性は本来の1/2や1/3になってしまいます。
働き方改革の目標の一つが生産性の向上ですので、経営的な観点からも長時間労働は抑制すべきことは明らかです。
■長時間労働をなくすための取り組みとその効果の実態
エン・ジャパン株式会社の2019年の調査によれば、働き方改革に取り組んでいる企業の割合は43%であり、企業規模が大きくなるほどその割合は大きくなっています。
取り組んでいる内容としては、有給休暇取得の推進に次いで、長時間労働の見直しが上がっています。
その結果、「労働時間が短くなった」の割合が33%あるものの、「特に変化はない」というのも28%という結果になっています。
【図1】【図2】【図4】【図5】資料出所
『エン転職』1万人アンケート「働き方改革」実態調査(2019年11月)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/20314.html
変わらない理由は、「制度や仕組みが現場の実態にあっていない」「制度や仕組みを実際に使う機会がない」というものが上位に挙がっています。
資料出所 エンジャパン『6,700名の社会人に聞いた「働き方改革」意識調査(2018年3月)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/12828.html
●働き方改革がうまく行かない理由
これは、働き方改革に取り組む際に、あまり深く考えずに、他の会社でうまくいった制度や仕組みをそのまま自社に取り入れたときに起こりがちな問題です。
一口に長時間労働といっても、その原因は会社によっても、社員によってもさまざまです。
たとえば、ある会社では単純に社員の数に比べて仕事量が多いのかもしれません。
その仕事がその人しかできないために、だれも手伝うことができず、その人だけ仕事の量が増えるのかもしれません。
あるいは、会社の中で長時間労働している人が頑張っていると思われる雰囲気があり、実際に評価が高いのかもしれません。
家庭の事情でどうしても残業代が必要で、残業をしている人もいるかもしれません。
早く帰っても家に居場所がないので、会社に遅くまでいる人もいるかもしれません。
仕事以外にやることがないので、遅くまで残っている人もいるのかもしれません。
会社で起こる問題は、必ずそこにいる人たちが引き起こしています。
言い換えれば、社員全員が会社の問題の一部であるという考え方です。その場合、解決策はその場にいる人たちで考え出さないとうまくいかないのです。だから、ほかの会社でうまくいったことをそのまま導入してもうまくいかないのです。
「担当している仕事が多い」場合、そもそも全員の仕事量が多いのか、ある仕事が特定の人にしかできないためにその人にだけ仕事が多くなるのかによっても解決策は変わります。
「この仕事は自分にしかできない。自分は会社には必要なんだ」と思いたいために、社員が仕事を囲いこむことも起きています。
■長時間労働をやめるための本当の対策とは?
仕事は一人で完結するものは多くありません。
チームやグループ、部署など、関連する人たちと実施していくことがほとんどです。
価値観の違うさまざまな人が関わることで多くの問題が生じます。
関係者一人一人が問題の一部になっているわけですから、自分たちで解決しなければ本当の解決には至りません。
自分たちで解決するとは、言い換えると「働き方を自分たちで決める」ことです。
つまり社員一人一人が、自分たちがどう働くか、お互いにどのように関わりあうのか、やりやすい仕組みをどう作るのか、ということを決めるのです。まさに、「一緒に仕事をするチームになる=チームビルディング」に取り組んでもらうのです。
自分たちの理想の働き方はどんな状態かについて考え、その実現に向かって話し合う過程が大事なのです。社員一人一人はいろいろな事情を抱えていますし、価値観や考え方も様々です。このようにバラバラの方向を向いたメンバーが、同じ方向を向いて、チームとしての理想の働き方を目指すことが必要になるのです。
チームとして成果をあげる過程は、タックマンモデルを使って説明ができます。
タックマンモデルとは
タックマンモデルでは、成果に至るまでにチームは次の4つの段階を通ります。
(1)形成
会社で決められた今までやってきた仕組み、やり方のままで仕事をすすめている状態
(2)嵐
今までの業務プロセスを見直し、自分たちで新しい役割、やりかたなどを考えて決め、それに取り組みはじめる。
この時に、本当にうまくいくのか?と不安を覚える人や、今までのやり方を変えたくない人、新しい役割になじめない人が出るなど、いろいろな問題に遭遇し、生産性が落ちる。
(3)秩序
メンバー全員が話し合いを重ねる中で、お互いの価値観を尊重し、目標を達成するために協力して仕事を進めるようになる。
(4)成果
自分たちで決めた新しい役割、仕組みがうまく機能するようになる。全員で目標を共有してチームで仕事が進められるようになり、生産性が上がる。
通常、成果というと右肩上がり、つまり時間と成果が正比例するようなイメージを持ちますが、実際には、そのような形で成果が出ることはありません。
むしろ、上の図のようにUの字のような「谷」に落ちて這い上がっていきます。
この「谷」をくぐる時に「嵐」を乗り越えることで、新しい秩序がうまれて成果があがります。新しいやり方や制度やしくみなどは、嵐を乗り越えて初めて生まれてくるのです。自分たちで生み出したやり方、制度、しくみだからこそ実行できるのです。
逆に、自分たちで嵐を乗り越えようとせず、今までの延長線上に他者から与えられた制度を入れたところで、成果は生まれにくいのです。
嵐を乗り越えるには、お互いを尊重し、お互いの意見に耳を傾ける、ということが必要になるのですが、これについては別の機会に詳しく説明します。
「働き方は自分たちで決める!」
そういう自立的な組織作りを、私たちは応援しています。
タックマンモデルについてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
最強のチームビルディング®とは―3つの力が組織を変える
https://soshikidukuri-kenkyujo.com/wp/column/21/
この記事のまとめ
- 経営者が労働時間を守るよう働きかけることが、会社や社員を守ることになる
- 長時間労働は現場が変わらないと改善が難しい、上辺だけの対策をしない
- タックマンモデルなど成果の上がる過程を理解することが大切