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2021.04.28

はじめて障害者雇用に取り組むときにやるべきこと

人事戦略

障害者法定雇用率が引き上げられます
〜これからも納付金を納め続けますか?〜

3月1日から、障害者の法定雇用率が2.3%に引き上げられました。従業員数43.5人以上の会社は障害者を雇用しなくてはいけない義務があります。現在、障害者雇用は一見進んでいるように見えます。しかし、それは資金力がある大企業中心で、中小企業ではあまり進んでいません。過半数の企業が未達成です。従業員が100人を超える会社では、障害者の雇用不足がある場合、1人につき月5万円の納付金を納めなければなりません。

貴社の状況はどうでしょう?

「気にはなっているけれど、雇用となるとやっぱりハードルが高いよ」と思っている会社も多いかもしれませんね。

一方、障害者雇用に価値を感じている会社は、お金を払ってでもエージェント経由で採用し、障害者も生き生きと働いています。
その結果、障害者雇用に積極的な会社として企業ブランドがアップした会社もあります。この差はどこから生まれるのでしょう?

このコラムでは、障害者雇用のポイントとハードルになるのはどんなことなのか?について詳しく見ていきます。

この記事のポイント

  • 誰も教えてくれない障害者を雇用するために考えること
  • 障害者雇用が会社全体の環境を良くする3つの可能性について
  • 障害者雇用を進める際に行う必要がある3つの配慮とは

障害者を雇用する上で考えるべきこと

障害者雇用に関しては、離職率が高いとか、メンタル不調者が多いとか、採用が難しくいつも人手不足という悩みをよく聞きます。

でも、丁寧に環境整備を進めれば離職率の高さも、メンタル不調者の多さも、そして採用も、障害者を雇用する事で同時に解決出来る可能性があるのです。しかし、今の環境のままで障害者雇用を強引に押し進めるとうまくいきません。

ではどうすればうまくいくのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。

障害者雇用における「障害者」とはどんな人でしょうか?

障害者雇用における障害者とは、ずばり障害者手帳を持っている人です。障害者手帳は、障害者枠の就労や福祉サービスを利用する為のパスポートと言えます。

手帳には「身体障害者手帳」、知的障害を持つ人の「療育手帳」「精神障害者保険福祉手帳」があります。最近は後遺症や内部障害、精神障害など、一見外見からはわかりにくい障害者も増えてきています。


ここで障害者枠について少し説明します。
ハローワークの求人には、一般枠と障害者枠があります。

障害者枠から応募した人を採用する場合は、障害者である事をオープンにして入社するので、その人に必要な配慮を、人事部と配属される部署が事前に話し合う事が出来ます。

一方で、一般枠から入社した人や、現在いる社員の中でも、病気などの理由から障害者手帳を持っている場合があります。障害者雇用の人数が足りていない場合や、もっと積極的に障害者雇用に取り組むと決めた場合には、トップが社内に宣言した上で、社内に呼びかけるのがいいでしょう。
この時のポイントは以下の3つです。

  • 障害を持つ特定の人物に呼びかけるのではなく、全社員に公平に呼びかける
  • 秘密を守る事を伝える
  • 不利益がない事を約束する

障害等級などは時間と共に変わる場合がありますので、年に1度は確認するようにしましょう。

出典:厚生労働省 令和2年 障害者雇用状況の集計結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16030.html

障害者を採用する時にやるべき事

障害者に会社の中でトラブルなく働いてもらう為にはどんな事が必要でしょうか?
会社には社員の安全を配慮する義務があります。雇用するときは、主治医の意見書等で、就労の許可を得ているかを確認出来ると安心です。

許可を得ているという事は、障害の状況が安定しているからです。通院の頻度や薬の服用について確認しながら、就労準備性が整っているかも確認します。例えば、睡眠剤を飲んでいたとしても自分で管理が出来ているのか、規則正しい生活を送っているか、チームやプロジェクトに参加できる協調性があるか、などは最低限必要です。これらの資質は障害者だけではなく、社員を採用するときに必要な資質とも言えますね。

補助業務として軽微な作業をやりたいのか、配慮はするけどバリバリやりたいのか、本人の希望も確認しましょう。

障害者の中には、元エンジニアや、資格を持っている人などもいます。
採用するときには、一般の社員の採用と同じように、貴社の戦力として迎え入れられる人かどうかを見極めましょう。

障害者雇用が秘める3つの可能性

障害者雇用は、一石二鳥の可能性を秘めています。ところが、丁寧に進めないと組織全体が疲弊し、生産性を低下させるリスクもあるのです。しかし、冒頭で述べたように、障害者雇用は職場の課題を一緒に解決出来る可能性があるのも事実です。うまくいくためにはどうすればいいのでしょうか?

ここで考えていただきたいことがあります。

1.障害者は誰が作り出しているのでしょうか?

障害者雇用の大きなハードルとなっている障害者に対する見えない壁は、実は私達一人一人の中にある思い込み、常識、フィルター、当たり前、決めつけ、です。まずはそれらを疑ってみる必要があるのです。

「障害者」という言葉は、一般的にはネガティブなイメージがあります。

「不自由」「劣っている」「可哀そうな人」という勝手な推測がどこで生まれるのかというと、五体満足の人が自分の基準で作った思い込みです。その基準が偏見につながり、可哀そうという勝手な思い込みにつながっているのです。

2.働くことに困難がある人は障害者だけでしょうか?

働く事に困難があるのは障害者だけではありません。ひとり親世帯、子育て世帯、介護世帯、女性、闘病、後遺症、D V、嫌がらせ・・・

障害者雇用という名前で障害者を特別視するのではなく、「ダイバーシティ雇用」や、「配慮枠採用」など行政の採用の枠組みも変わると、より取り組みやすくなるのかもしれませんね。

3.今いる社員の強みを知っていますか?その強みを活かす仕組みはありますか?

1人1人の障害の特性は違います。その違いを知って、この人は何が出来て何が出来ないのかをはっきりする事が必要です。集中力が続く人もいますし、アイデアを出すことが得意な人もいます。変化が苦手な人もいるし、すぐに行動出来る人もいます。視覚障害者の見え方もそれぞれで、完全に見えない人から、穴から見ているような視界でもスマホを操作出来る人もいます。

職場で、お互いが1人1人の個性を見る事が必要なのは、障害者に限りません。一人一人が得意な事で貢献し、出来ない事は出来ないとはっきり示す。なぜ出来ないのかを責めるのではなく、どうしたら出来るようになるかを一緒に考える。これは障害者だけでなく職場のメンバー全員に対しても必要な配慮です。

障害者雇用をするときに必要な配慮とは?

1.仕組みを整える事

障害者が働きやすいような環境、仕組みを整えることも大事です。

こんな事例がありました。仕事の優先順位がわからず、不安になってしまうAさんは、サポート役のBさんと業務の可視化に取り組みました。

職場のメンバーは、Aさんへの業務を依頼する時には、期日を書いた付箋を付けてAさんに渡します。Aさんは毎朝作業に取り掛かる前に1日の業務を一覧表にまとめてから作業をします。

Bさんは週に1回Aさんと面談をします。
30分という限られた時間なので、事前に面談シートに記入してもらい、体調や業務量、悩みなどの気になった項目について重点的に聞きます。(現在、テレワーク中の社員の評価や関係性、メンタル不調が問題になっています。そのような場合にも応用が出来そうです)

2.関係性、風土、雰囲気

もし、職場で上司が部下に怒鳴っているような環境の場合、そこは障害者が働きやすい職場でしょうか。
そこまでではないとしても、出来ない理由を誰かのせいにしがちな会社の風土は、貴社には全くないと言えるでしょうか。

誰かのせいにするのではなく、そこは仕組みやチームで補う。本来、組織はその人がいなくても仕事が回らないといけません。

障害者雇用をきっかけに、御社の当たり前を疑い、そこに向き合う事は、既存の課題を同時に解決するきっかけになるはずです。障害者にとって働きやすい職場は、誰にとっても働きやすく、その評判は採用にも離職率にもきっと良い影響を与えるに違いありません。

3.環境を整える事

置き場所を決める、余計なものを置かない、動線を意識したレイアウトを意識しましょう。小休憩を入れながら、時間割を作るのも良いですね。

公的なサービスも利用しましょう

困ったことや悩みが出てきた場合、自分達だけですべてを何とかしようとせずに、支援機関に相談したり、プロに頼りましょう。

例えば、ジョブコーチ支援という公的な制度は、障害者、事業主、そして障害者の家族に対して、職場適応に関するきめ細かな支援を行います。ジョブコーチ支援には訪問型と配置型があり、約3ケ月から半年、相談支援やマニュアル作成などの作業支援をサポートして貰えます。
ジョブコーチ支援があると1年定着率は約7割にも上昇します。

今後の企業の成長には障害者雇用も必須です

今後企業の成長には「ダイバーシティ」の感覚が必要です。
障害者雇用についても、まずは知る事から始めてみませんか?
障害者であるかないかに関わらず、誰にでも特性は誰あります。何で貢献してもらうのか、どんなことをすれば、その人が働きやすくなるのか? を考えて支援する。

「数」の達成よりも、「質」の達成を目指す。みんなが生きやすい世の中に繋がれば、S G D sやC S Rも、結果として必ずついてくるはずです。

この記事のまとめ

  • 障害者雇用を通して、誰もが働きやすい、続けやすい環境の見直しが重要
  • 偏見で進めるのではなく、社員ひとりひとりの強みを活かす仕組みをつくる
  • ダイバーシティの感覚を持ち、数よりも質を高めることを意識した取り組みが大切

鎌田 良子

鎌田 良子

特定社会保険労務士

担当地域:全国

週4正社員®︎制度を導入する社労士法人に勤務し、自ら新しい働き方を実践中。法律論だけでなく、経営者が大切にしている事を軸に、社員の強みが活かされ、会社が発展するしくみ、最適なアプローチを提案しています。