皆様の職場では、働き方改革は順調に進んでいますか?
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(俗に言う「働き方改革関連法」)が2018年に公布され、順次施行されてきました。
「時間外労働の上限規制」に関しては、大企業・中小企業問わず既に施行されており、更には、「月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ」に関する中小企業への猶予期間も、2023年4月1日より撤廃され、大企業と同様に50%以上とする必要があります。
総労働時間を減らしても現状の売上や利益を維持するためにも、生産性を下げるわけにはいきません。
経営戦略として働き方改革に取り組む必要があり、現在のようなコロナ禍による不安定な環境ではなおさらです。
多くの方々が何かしらの働き方改革のアクションに取り組んでいるはずです。
しかし「順調に進んでいる」と自信を持って言える方は少ないのではないかと思います。
この記事のポイント
- 働き方改革の取り組み、現場で実践した成功事例
- 施策選び方は「成長」と「難易度」2軸のバランスが重要
- 働き方改革でリーダーが果たす4つの役割がわかる
働き方改革が進まない理由とは?
では、なぜ働き方改革が順調に進まないのでしょうか?
業種や企業によって業務も様々、理由も様々だと思いますが、そう言ってしまうと身も蓋もありません(笑)。
働き方改革が進まない会社で人々が感じている共通した理由は、ズバリ「楽しくない」からです。
楽しければ多くの方が前向きに取り組むでしょうが、楽しくないからやりたくないのです。
では、なぜ楽しくないと感じるのでしょうか?
それは、多くの社員やスタッフが「上から現場に降りてくる号令」に違和感を覚え、やらされている意識が強いことが大きな要因です。
したがって、その意識をどうやって変えていくかが課題となります。
日本の会社は世界ランク最下位?
米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)に関する調査では、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%と米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスでした。
逆に企業内に諸問題を生む「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達しました。(一部抜粋)。
※参考記事:
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/
仕事に対して熱意が低いことも、「楽しくないから」ということが関係していると考えられます。
では、働き方改革が全くうまくいかない会社ばかりか? というとそういうわけでもありません。
働き方改革の取り組みの実例
ここで、私の以前の勤務先で働き方改革に取り組み、うまくいった事例をご紹介したいと思います。
私はパチンコ業界で約20年間勤務していました。全国展開している大手法人だったのですが、リーディングカンパニーとして法令が施行される前から働き方改革に取り組むことになったのです。
まずは現場の2店舗と人事部の3部署でトライアルとして実施することとなり、私が店長をしていた店舗もトライアルの店舗になったのです。
前向きな気持ちと不安を抱えながらトライアルがスタート。基本的な部分は株式会社ワーク・ライフバランスのプログラムを参考にし、主な施策はそれぞれの部署にて、自分たちで考えて進めることとなりました。
まず、働き方改革を中心になってすすめるコアメンバー数名のチームを作りました。私は最も重要なのはコアメンバ-の人選だと思い、店長からアルバイトスタッフまで様々な立場のスタッフをコアメンバーにしたのです。
アルバイトスタッフの比率が高い私の職場では、もしもコアメンバーが店長や社員だけでは、現場のスタッフが働き方改革の取り組みを他人事と捉えて、施策を広く浸透させることは困難だと思いました。同じ立場のスタッフがコアメンバーの一員として取り組んで、それを伝えることで、現場の他のスタッフが理解や納得しやすいこともあります。
また、「とにかくやってみよう」と前向きに取り組んでくれそうなスタッフ、取組内容を他のスタッフに上手く伝えられそうなスタッフ、人を巻き込むのが得意なスタッフなど、スタッフ一人一人の強みや役割をイメージしながら人選しました。とはいえ、結局は本人のやる気が一番のポイントだと思います。
開始当初は何もわからず、数多くの施策を考え、手探りで取り組みました。本社の担当部署とも月1回のミーティングを実施し、サポートとして心強く感じていました。
スタッフがやってみたいと思うことに取り組む
職場の課題を洗い出し、解決する施策案を出すには、付箋を使用したブレインストーミングのような形で、以下のことを心がけて行いました。
- 自由な発想
- 質より量
- 便乗OK
- 否定しない
私も店長として参画し、案を出すのですが、私の意見が優先されたり、指示にならないように注意し、あくまでも同じ立場でいることを心がけました。
様々なスタッフがそれぞれの目線で考えるからこそ、より良い案が出てきます。そもそも、スタッフ自らがやってみたいと思う案でないと、絶対に楽しく取り組むことはできません。
成果と難易度の2軸の観点から施策を選ぶ
メンバで出し合った案を絞るにもポイントがあります。
成果と難易度の2軸で分け、付箋を整理していき、「成果が高く、難易度が低い」ものを実施案に決定します。施策を実行して成功体験を積み重ねることが楽しくなるためには必要です。
「成果が高く、難易度が高い」案は形にならない可能性も高く、成功体験に繋がりにくいと思います。
「成果が低く、難易度が高い」案も実施しません。
「成果が低く、難易度が低い」案には注意が必要で、成果も低く職場の変化は少ないのに仕事をやった気になり、良い状態ではありません。成果が低い案はやらない方が良いでしょう。
●「成果が高く、難易度が低い」施策を優先するがスタッフの意見も尊重する
案が決まれば、担当者や実施期限を設定し、定期的に進捗確認を行いました。その結果、成果が出ていれば継続、予想より成果が出ていないようであれば廃止も検討します。成果が出ているからこそ楽しく感じて行動を継続できます。
店長としての発言を我慢することも多くありました。施策案を聞いた時に、今までの経験から「さすがにそれは成果が出ないかな?」と思っても、「とりあえずやってみよう」というスタンスを大事にしました。
なぜなら、私が会議などで不在のことも多いので、スタッフ達だけでの自立自走を考えており、スタッフの成長は必要不可欠でした。スタッフ自らが考え、自らが取り組み、自らが振り返り、自らが修正し、あくまでも私は困った時のサポートに徹する。そうでないとスタッフの成長に繋がりません。
実際に徐々にスタッフだけですべて行うようになり、最終的にはコアメンバー以外の多くのスタッフも自分ごととして積極的に参加するようになりました。
課題解決を積み重ねることで徐々に職場環境が変わっていきました。正直なところ、様々な施策を実施するのは面倒くさいと感じることもありましたが、その成果として得るものがあるから継続出来ました。成果を実感することは、継続するためにも絶対に必要なのです。
約1年のトライアルの後、数年かけて働き改革の取り組みを全国に広げることとなりました。
私は経営企画部の担当者と共に全国展開に向けて活動し、自分自身が更に成長したと感じています。この活動が現在の仕事に繋がるきっかけになっています。
【パッと帰ろうDAY】:みんなで定時に帰る取り組み
ここで私たちが実際に取り組んだ【パッと帰ろうDAY】をご紹介します。
パチンコ店は基本的に年中無休で営業していましたが、他の日と比べて落ち着いていた8のつく日をいわゆる「NO残業DAY」にしました。【パッと帰ろうDAY】はスタッフが付けたネーミングで、語呂合わせもよくわかりやすくキャッチーだったので採用しました。
「NO残業DAY」だと強制的にやらされるイメージもあるかと思い、楽しく取り組めるようなネーミングにしたのです。
スタッフに対して、ただ単に「早く帰れ!」と命令して強制的に帰らせるわけではなく、みんなで協力して定時に帰る取り組みです。いつも同じ業務内容ではありませんので、日によっては定時に帰るために計画から綿密に考えないといけません。翌日以降でも問題ない業務は、持ち越すこともありました。
●「みんなで定時に帰る」ために全員で取り組む意識を高める
お互いに協力してみんなで定時に帰る、という一人ひとりの姿勢や周囲の環境も必要です。
一人で残業すると誰にも迷惑かけないので、時間を気にしなくなります。なので、もし一人で残業しようとするスタッフがいたら、他のスタッフに「終わってないみたいだけど、手伝ってあげないの?」と問いかけ、本人にも「他のスタッフにフォローをお願いしないの?」と問いかけます。
目標は「みんなで定時に帰る」ことですので、達成に向けてチーム全員で一生懸命に取り組まなきゃいけない、という意識を持たせることは重要ですし、全く出来ていない場合には「これぐらいの事が出来ないと、もっと大きな目標は達成できない」と、厳しく言うこともありました。
「楽しさ」の中にも「真剣さ」があるからこそ、成果が出て成長するのです。
定時に帰るためにどうするべきか? をスタッフ自らが考えるからこそ、さらに工夫したり業務改善を考えることになります。その積み重ねがスタッフの成長となり、情報共有していくことで組織の成長に繋がります。
定時にパッと帰れるようになる魔法なんてありません。スタッフの創意と工夫の積み重ねだけが生み出せるものです。
本当の「ワーク・ライフ・バランス」とは?
働き方改革と関連して出てくる「ワーク・ライフ・バランス」とは、どういった状態でしょうか?
仕事と私生活で、時間のバランスをとることでしょうか?
それとも、ゆとりを持ってほどほどに働くことでしょうか?
残念ながら、いずれも違います。
「ワーク・ライフ・バランス」は、「仕事と生活の調和」のことで、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」 と定義されています。
※参考記事:
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/index.html
ライフが充実すれば、人脈・アイディア・スキルが得られ、結果的にワークの質や効率が高まります。
仕事では、アイディアが沸き、仕事は効率的に終わり、視野が広がり企画力も向上します。私生活では、心も身体も健康になり、外部との交流で人脈も広がります。自己研鑽に費やす時間も捻出可能です。
これからはワークとライフでの相乗効果を実現することが求められています。
働き方改革でリーダーの果たす役割は?
働き方改革で経営者や管理者等リーダーの役割は非常に大きく、リーダーによって働き方改革の成果が左右されると言っても過言ではありません。
ではリーダーの役割とは何でしょうか? 私は次の4つだと考えています。
1.目的・ゴールをチームで共有する
2.スタッフの取り組みをフォローする
3.リーダーが模範を示す
4.スタッフのモチベーションを上げる
1.目的・ゴールをチームで共有する
働き方改革の目的とゴールをスタッフにしっかり伝えているかどうかが重要です。
ゴールが見えていなければ、動き出すことは出来ません。ゴールを指し示し、メンバーを導くことは、リーダーの役割です。
将来の労働人口の推移による働き方改革の重要性や、ワーク・ライフ・バランスが実現されることによってもたらされる未来はどんなものか、スタッフは理解できているでしょうか?
実施すればどうなるのか、スタッフは描けているでしょうか?
ただ単に「早く帰れ」と言っているだけではスタッフは何もわからず、むしろ残業代が減ることによるマイナス面しか見えません。
2.スタッフの取り組みをフォローする
施策を実行してうまくいっている時には手伝う必要はありません。
自分で行った、という実感がある方がモチベーションも高くなります。しかし、施策が進まない、成果が出ない時は、スタッフが不安になります。声をかけ話を聞く、手を差し伸べる、背中を押してあげる、ということだけでも良いのです。
ちゃんと見てくれている、と感じることが安心感に繋がります。
3.リーダーが模範を示す
施策に対してリーダー自らが模範を示す必要があります。
例えば定時退社に取り組んでいるなら、やるべき事を時間内に終わらせて、率先して早く帰る。
「長時間仕事」や「とにかく残業して頑張る」ことが美徳と思われるなど、現代の働き方とギャップのある価値観や風土が、根強く残っている職場は少なくはないでしょう。
早く帰ることが大事なのではありません。限られた時間の中でやるべきことを行い、成果を出すことが大事なのです。要するに「時間当たり生産性」を最大化させることです。現在の厳しい市場環境では成果を出すことも難しいかもしれませんが、長時間働いて成果が出るのは普通です。
リーダーが疲れ切った顔で仕事をしていて、スタッフが楽しく仕事が出来るでしょうか?
そんなリーダーにスタッフが憧れるでしょうか?
リーダー自らが活き活きと働き、ライフでの充実が仕事に繋がっていることを伝える。
それこそが、スタッフを動かす最大のキッカケとなります。
4.スタッフのモチベーションを上げる
働き方改革の取り組みは、スタッフ一人ひとりが、自ら「やろう」と思わないと、いつまでたっても順調に進むことはありません。
リーダーの重要な役割は、スタッフの思いに火をつける、取り組みが楽しい、成果が出て楽しいと感じさせることです。スタッフが自立自走し楽しくなるためにはどうするべきか、何が出来るか考えてみてはいかがでしょうか?
働き方改革の参考となる以下のコラムもぜひご覧ください。
【オススメの関連コラム】
経営戦略としての働き方改革―ビジョン経営はルービックキューブで考える
なぜ残業は減らないのか? 働き改革で成果を出すたった一つの方法
この記事のまとめ
- 働き方改革のコアメンバーはさまざまな立場の人を取り入れる
- 施策はスタッフがやりたいことを意識し、自発的に動けるものを選択する
- リーダーはスタッフの模範となり、チームの活動を一緒に高めることが大切