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COLUMNコラム

2022.02.15

ストップ!介護離職を止めるための2つの対策

採用と離職

中小企業のご担当者が今後の課題だとおっしゃっているのが従業員の介護問題です。
50代以上の男性社員はまだ配偶者に頼れるかもしれませんが、それよりも下の世代ですと配偶者もフルタイムの共働き世代です。兄弟姉妹も少なく配偶者に頼ることも難しいとなると自分自身が介護を担う当事者になります。

育児休業は、取得や復帰時期が読めますし育児の終わりもある程度わかります。

しかし、介護は、いつ何をきっかけとして必要になるか予測ができません。必要な状況がいつまで続くかも分からないし、要介護度が高まることも少なくありません。

日本全国で問題になる「介護」の問題と、介護に伴う離職について、企業や組織としてどのように対策していけばよいのでしょうか。

この記事では、介護離職をきっかけに社内改善に取り組まれた事例をご紹介しながら、誰もが休みやすく・働きやすい組織を作る方法を解説します。

介護にまつわる現状:介護離職の課題

生命保険文化センターが行った調査で、過去3年間に介護経験がある人に、どのくらいの期間介護を行ったのかを聞いたところ、介護を行った期間(現在介護を行っている人は、介護を始めてからの経過期間)は平均54.5カ月(4年7カ月)になりました。
4年以上介護した割合も4割を超えています。

出典:「生命保険に関する全国実態調査」(生命保険文化センター 平成30年度)

https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/30/2018honshi_all.pdf

育児休業と介護休業は性質が違う?

ところで育児休業と介護休業の性質が違うのはご存知でしょうか?

育児休業は新生児を育児する期間取得しますが、介護休業は、仕事と介護の両立の準備をするために活用するものです。93日間という短い期間で介護が終わることは上記調査結果からみてもあまりないでしょう。

この介護休職の期間は、以下のことを実施する期間として設計されています。

  • 社内の両立支援制度の確認と手続き
  • 介護認定の申請や介護施設の見学
  • 介護と仕事の両立体制の確立(介護サービスを利用しながら、フレックスタイム勤務や時差出勤、介護短時間制度、在宅勤務など休業以外の方法を取り入れていく等)

厚生労働省の雇用動向調査によると、2019年に離職した人は約785.8万人、そのうち個人的理由で離職した人は約579.3万人でした。そして、個人的理由で離職した人のうち「介護・看護」を理由とする人は約10.0万人です。

大和総研の調査によると、介護をしている雇用者の9割は、雇用形態を問わず介護休業等の制度を利用していないとのことです。

出典:「介護離職の現状と課題」 (株式会社 大和総研 2019年1月9日)

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/hoiku/20190109/190109hoikukoyo01.pdf

介護離職の背景や事情は様々でしょうが、介護休業や介護短時間制度、1時間単位で取得可能な介護休暇制度などの周知と本人の事前準備、職場環境の整備があれば、離職しないで勤務し続けられた方も少なくないのではないでしょうか。

労働力不足の中、一線で活躍している社員が介護のため離職をしてしまうのは会社として大きな損失です。

介護疲れの社員がいたことで、社内の制度を整えた

先日、ある社長さんが話してくれたエピソードが忘れられません。

その会社では、以前従業員の方ご自身にご不幸がありました。
親の介護を一人でやっておられて、それが背負いきれなくなったことが原因の一つだったと考えられました。

その方の勤務していた部署は、場所的にも本社と距離があり、また所属していた事業所内では個人の事情を話せる環境になっておらず、周囲の人も人事部も、そのような不幸な出来事があって初めてその方が親の介護をしていたことに気づいたということでした。

「彼が親の介護をしていることをあらかじめ知っていれば、もっと会社として出来る事があったと思う」と、とても残念そうに話されていた社長さんの表情を、私は忘れられません。

それ以降、その会社では、社員が黙ってやめないようにプライベートな事情も相談できる環境づくりに努めました。

育児や介護の両立、支援や休暇制度の周知を徹底した

まず、育児や介護の両立支援制度や年次有給休暇や特別休暇などの休暇制度の周知を定期的にしています。
そして、実際に育休の取得者が出てきたとき、どうやったら続けられるか、復帰時にどういう環境だったら続けやすいか等、丁寧に社員に聞いて対応します。

制度については、有給の半日や時間単位で取得、有給での看護休暇や介護休暇、始業、終業の時間を柔軟な対応などを、社員の意見も聞きながら、社員が働きやすいように徐々に整えてきました。今では、母親の病院付き添いや療育が必要な子供のケアなど様々な事情がある従業員が利用しているとのこと。

「うちは男性社員が多いが、彼らの配偶者も他社で働いている。
家庭のことは女性だけがすればいいものでなく、両性でするものだと思っているので、男性社員にそう伝えています」とも仰っていました。

誰もが安心して休め、チームメンバーが効率的に働くチームを作っていきましょう

介護離職を防ぐために会社は何をしたらいいでしょうか?

中小企業の規模なら、以下のような施策を取り入れてみたらいかがでしょうか。

  • 定期的に介護当事者になる可能性があるか面談などで把握
  • 社内制度や法律の周知、一歩進んでどんな制度があれば有用かヒアリングしニーズに合わせていく
  • 一定年齢の社員には研修などで意識づけと準備をしておいてもらう
  • 両立している社員のフォロー

男性の50代40代の中には、長年仕事中心の生活を続けてきたなかで「自分が休むと仕事が滞る」と責任を感じ制度利用を躊躇したり、「長時間労働や休日出勤ができないと会社から当てにされなくなるのではないか?」と働き方の変化を受容できず、自己肯定感が持てなくなりモチベーションが下がってしまう方もおられるかもしれません。

男性の介護離職者は50代が最も多いことからもそういった気持ちや考えに寄り添いながら理解を促す必要があるのではないでしょうか。

働き方を見直し、誰もが休める体制づくりを目指す

重要なのが、誰もが休める体制づくりです。
休める体制を整えていくには、働き方の見直しが必要です。
長時間労働のままでは、介護時間の確保や仕事との両立はできません。

たとえ会社の制度や介護保険のしくみが整っていても、当事者だけでなくチームの皆が効率的に仕事をして短時間でも今まで通りしっかりアウトプットができるような働き方にかえなくては、「両立は無理です」となってしまいます。

短時間になった人、休業や休暇を取得した人の仕事を、そのまま残業できそうな時間に制約がなさそうな人に割り振るというマネジメントをしていると、業務が偏ることで社内で不満が出たり、社員が疲弊してしまいます。

チーム全体の働き方を見直す働きかけができるのはチームのマネージャーやリーダーです。

是非、労働人口が少なくなる将来に備えて、今後社員さんが状況に応じて働くことできるように「誰もが安心して休め、かつチームメンバー全員が効率的に働いている」チームづくりに少しずつ取り組んでみませんか?

小松 麻利子

小松 麻利子

特定社会保険労務士、アンガーマネジメントコンサルタント

担当地域:近畿を中心に全国

中小企業・自治体職員の働き方改革やハラスメント防止対策を中心にコンサルティングを実施。社員一人一人が強みを活かしてやりがいを持って働けるよう丁寧な支援をしています。