「勤務間インターバル制度」をご存知でしょうか?
「勤務間インターバル制度」とは、勤務終了後から翌日の出勤までの間に一定時間以上の「休息時間」を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間をしっかりと確保する取り組みです。
「働き方改革関連法」に基づき「労働時間等設定改善法」が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが規定されました(2019年4月1日施行)。
現状では事業主の努力義務とされていますが、今後の改正では義務化も検討されています。
この制度の内容と、導入することでどんな効果があるのかについて、私の会社の事例をもとにご紹介させてください。
この記事のポイント
- 意外と知られていない「勤務間インターバル制度」とは?
- 勤務間インターバル制度を導入した変化と成果の実例案
- 分析データから見る、睡眠不足と業務パフォーマンスの関係性
実例:私の会社で制度を導入した時のアクションと成果
私は、前職で最大手のパチンコ法人に約20年、そのうち十数年は店舗管理者として勤務しておりました。交代制での勤務となっている業態や事業所は他の業界でも多く存在し、パチンコ業界も例外ではありません。
閉店後の新台入替の作業などがあると、明け方まで営業の準備をすることもあり、朝から出勤してから夜遅くまで勤務、翌日も朝から出勤する、という日も出てきます。寝不足の状態での勤務となり、気付かないままウトウトしてしまうことも。体を動かすためにホールで走り回ったり、駐車場の巡回を行ったりして、眠気と戦うこともありました。
寝不足というマイナスの状態では、アンガーマネジメントの観点でも、イライラして怒りが大きくなりやすい、と考えられています。皆さんも一度は同じような経験をしたことがあるかと思います。
当時の私は、「それが普通だ、管理者としての責任だ!」と思い、歯を食いしばり我慢して仕事を続けていましたが、生産性が落ちるということを聞かされた時には、「そりゃ当然だ」と感じました。それと同時にハッと気付きました。当然ですが、私と同じように寝不足で働いている従業員もいるはずです。
「こんな状態で明るく元気に接客が出来るのだろうか?」「家族との時間は作れているのか?」と、自分自身だけの問題ではなく、店舗全体の問題であると認識しました。
更には人件費のコントロールも店舗の課題となっており、「それでも営業しなくてはならない、一体どうしたらいいのだろうか?」と悩まされていました。
勤務間インターバル制度の導入で、利益向上につながった
その後、幸いにも会社が人事制度として勤務間インターバルを導入し、全社的に取り組むこととなりました。
今後の方向性は見えたので、とにかく現状を改善し働き方を新しくするよう取り組みを開始しました。業務を洗い出し、業務分担や引継ぎ方法も見直しました。
業務予定の見える化なども行い、業務改善を実施しながら残業を減らしつつ、計画的かつ柔軟なシフト管理により、残業時間の削減と共に、勤務間インターバルにより睡眠時間を確保することとなりました。
残業時間を削減することで、生産性が下がっては意味がないのでは? と思う方もいかもしれませんね。
しかし実体験では残業代削減と同時に、以前と同水準の営業実績を保つことが出来ており、トータルではなんと利益向上となりました。
それは何故でしょうか?
導入を通して、業務への根本的な意識改革の必要性に気づく
その理由として従業員のパフォーマンスが上がったことが挙げられます。
当時の従業員の意見として、『睡眠時間が取れることで体調も良くなった』『プライベートの時間が増えることにより、店舗と家の往復だけだったのが、やりたい事も出来た』『元気に接客した時、お客様が笑顔を返してくれるのが嬉しい』などといったプラスの声が増えました。
その一方で苦労したことは、は従業員のシフト調整です。
パチンコ店での勤務は交代制であり、閉店後の作業もあります。機械のトラブルなどがあるとイレギュラーな残業も発生します。事前作成の段階で営業スケジュールに沿って綿密に作成し、イレギュラーな事案にも柔軟に対応することが必要となりました。
イレギュラーがあることを前提にしてシフト管理することで、大幅に残業が増えることはありません。みなし残業ありきで勤務していては、残業を削減していくのは難しいでしょう。根本的な意識改革が必要でした。
今まで実際に取り組んできたことを振り返ってみると、勤務間インターバル制度を導入することにより、睡眠時間の確保だけでなく、プライベートの時間が増えることで、家族や友人などとの時間、自己啓発や趣味の時間などを持つことができるように変化し、以前より生活が充実していることを実感しました。
イライラすることも少なくなったことで、夫婦喧嘩が減ったのは驚きでした。
これにより、ワーク・ライフ・バランスの実現に近づいたと確信しました。私生活を充実したことで、仕事に対する意欲も向上し、作業効率が上がり、仕事と生活の好循環が継続して生まれていくのです。
では、勤務感インターバルが実際どのような制度なのか、そして睡眠時間と仕事の生産性の関係について詳しく見ていきます。
勤務間インターバル制度とは?
2017年に作成された「働き方改革実行計画」では、「働き方改革の実現」に向けて取り組むべき課題として、「処遇の改善(賃金など)」「制約の克服(時間・場所など)」「キャリアの構築」の3つが挙げられています。
勤務間インターバル制度とは、このうち「制約の克服(時間・場所など)」の課題に対しての取り組みであり、長時間労働の是正になるものと考えられます。
※引用 厚生労働省 東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/jirei_toukei/roudoujikan_kyujitsu_kyuka/chowa/1219_001_00001.html
実際に勤務間インターバル制度を導入している企業では、始業時間を遅らせた分を勤務したものとみなす事例や、始業時間と就業時間を共に遅らせる事例もあります。
※引用 働き方・休み方改善ポータルサイト
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/
EU諸国ではすでに11時間のインターバルが義務付けられており、日本はやや遅れていると言えます。
適正な睡眠時間、睡眠不足が仕事に与える影響は?
1日の睡眠時間については、日本の成人28,000人を対象にした横断研究において、7時間以上8時間未満が男性30.5%、女性29.9%、6時間以上7時間未満が男性28.6%、女性32.1%であり、6時間以上8時間未満の範囲に、およそ6割の者が該当しています。
その一方で、6時間未満の者が男性 12.9%、女性 14.4%、8時間以上の者が男性8.1%、女性 23.5%となっており、全体としては7時間前後をピークにした広い分布となっています。
※引用 厚生労働省-健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042800.pdf
睡眠時間は年齢と共に短くなるとも言われておりますが、適正な睡眠時間は人それぞれであり、最適解は無いと言えるでしょう。
では、睡眠不足は日中のパフォーマンスに与える影響はどうでしょうか?
米国の大学が行った実験では、1日平均7~8時間睡眠をとっている健康な男女を48名集め、3つのグループに分けました。14日後、8時間睡眠のグループに比べると、4・6時間睡眠のグループの注意力が確実に欠如していることがわかりました。
まず、6時間睡眠のグループは、酒に酔っている時と同じような状態になっていたことがわかり、4時間睡眠のグループはテストの途中で寝てしまう人も現れる始末。
さらに興味深いことに、4・6時間睡眠のグループの脳機能は、時間が立てば立つほど下り続けました。つまり、睡眠不足のダメージは累積されるということがわかったのです。
※引用元
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12683469/
また、米ネイチャー誌に掲載された記事では、「人間の脳が集中力を発揮できるのは朝目覚めてから13時間以内で、集中力の切れた脳は酒気帯びと同程度の、さらに起床後15時間を過ぎた脳は、酒酔い運転と同じくらいの集中力しか保てない」とされています。
※引用元
https://www.nature.com/articles/40775
●データから残業中は最も生産性が低くなる可能性が高い
つまり、残業中は生産性が最も低くなっている可能性が非常に高い。
生産性が低くなっているにも関わらず、残業代として割増賃金を払っていることになります。経営する側としては、何としてでも改善すべき状態です。
睡眠時間を削って頑張っているつもりでも、日中のパフォーマンスが落ちていたら睡眠時間を削る意味がないのは明白です。頑張っているどころか、寝不足状態が続くことで、だるさや頭痛などに悩まされることになります。更にはメンタルヘルスの不調も考えられ、むしろマイナス面が目立ってしまいます。睡眠時間を確保することによりマイナス面を抑え、集中力の高い時間を効果的に使い、生産性を高めるよう取り組むことが必要です。
働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業への助成金もあります。
2021年度の交付申請受付を開始しており、交付申請期限は2021年11月30日までとなっています。
支給対象となる事業主は、定められた条件に該当する中小企業事業主です。
支給対象となるための取り組みや、成果目標の設定などもありますので、検討される方は社会保険労務士などの専門家に相談されることをオススメいたします。
詳細は厚生労働省のHPを参考にしてください。
※参考 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
最後に:働き方改革の一部として制度導入を検討しよう
勤務間インターバル制度は、働き方改革の一部であり、決して単独で考えるものではありません。
他の働き方改革の取り組みと同時に実施することで可能になるものと考えています。
現状の働き方を見直し、業務改善を実施することと同時に、従業員同士でのコミュニケーションが取りやすい環境づくりや、チーム力の向上も必要であると感じます。
現状では努力義務となっていますが、今後は義務化される可能性が高く、余裕を持って丁寧に導入す制度だと考えられます。もし残業時間に課題があるなら、残業代も減り、生産性もあがる一石二鳥の勤務感インターバル制度の導入を考えてみてはいかがでしょうか?
この記事のまとめ
- 勤務間インターバル制度は働き方改革の取り組みの一部である
- 業務の見直しを図ることで、残業を減らしても利益はさがらない
- 今後は義務化される可能性が高いため、今から取り組んでも遅くはない