「女性活躍推進法」とは、女性が活躍しやすい社会の実現を目指して作成された法律です。
就業を希望しながらも、出産や育児などの事情が重なって就業できていない女性が多いことを背景に、2016年に施行されました。さらなる拡充を求めて101人以上の企業が2021年4月より対象になることから、「一般事業主行動計画の策定・届出」を準備中という中小企業様も多いと思います。
私は、この取り組みを女性活躍だけに焦点化するのはもったいないと思っています。
介護をする社員や個人的な事情がある人など、より多くの多様な働き方を求める人々が活躍できるように、そして生産性を高め長時間労働をしない働き方改革を進める、誰もが活躍できる職場をつくるための手段として位置付けたらいいと思っています。
この記事では、ライフイベントやさまざまな生活の変化から起こる、社員の離職を減らし、誰もが活躍できる職場をつくるヒントを解説します。
この記事のポイント
- 制度を柔軟に取り入れ、ライブイベントに伴う離職を減らした成功事例
- 誰もが活躍できる職場作りに必要な2つの視点
- 性別問わず、働きやすい環境を考えないと、離職を妨げなくなる原因
ライフイベントに伴う離職を防ぐために制度を整えた会社の事例
ここで、数年前に私が在宅勤務制度を導入するお手伝いをした社員数50人規模の会社の取り組みをご紹介します。
その会社では、女性社員に出産育や児で辞めてもらいたくないため、どんな制度があったら育休明けでも働きやすいか? をヒアリングし、「在宅勤務制度」という要望を受けて制度を導入しました。
この会社には育児短時間勤務制度もありましたが、在宅勤務制度を利用すると通勤時間が削減できるということで、育休あけからすぐにフルタイムで復帰する女性社員もいました。
当初この制度は、育児・介護・傷病などの制約がある社員向けとして導入したのですが、現在は社員全員に拡大されています。
柔軟な働き方を促進する制度として、さらに、始業・終業時刻の繰り上げ繰り下げを上長に申請すれば可能にするといった制度も導入しました。この制度も子どもの送迎や自分の通院など用事があってもフルタイム勤務ができるため好評とのことです。
この会社の社長に、一度「なぜこのように制度を整えていくのですか?」とお聞きしたら、こんな答えが返ってきました。
「当社では、まだ会社が小規模な時から、男性も女性も関係なく採用してきました。
せっかく当社を選んでくれたのに、女性社員がライフイベントで離職してしまうのはとても残念なので、制度を入れることでそれが防止できるなら、やっていこうと思っていました。
当社のことを『働きやすい』『ずっと働きたい』と思ってもらうにはどうしたらいいか? と考え、できることから取り組んできました。結果的に、女性に働きやすい環境というだけではなく、全ての社員にも働きやすい環境になってきていると思います」
また、この会社では、働き方改革で残業時間削減が課題とされる前から、残業をゼロに近づけるよう数年をかけて取り組んだり、法律で決められている以上の有給休暇制度を整備するなど、長時間労働をせずに仕事をする働き方を、在宅勤務制度を導入する前から全社的に推進しています。
現在は男性社員数より女性社員数の方が多くなり、男女問わず適任者がチームリーダーとなっているそうです。
この会社のように、男女関係なく仕事とプライベートが両立する働きやすい環境づくりをすることが、今後のポイントになってくると思います。
男女関係なく、誰でもが活躍できる職場作りを
「誰もが活躍できる職場をつくる」ために必要な視点は2つあります。
「誰もが働き続けられる職場づくり」と「一人一人の強みや得意を活かした仕事や役割への割り当て」です。
誰もが働き続けられる職場づくり
一つ目は「誰もが働き続けられる職場づくり」です。
そもそも女性活躍を「出産や育児を支援する制度整備」や「女性だけが働きやすい職場づくり」だけにフォーカスし、実現しようとすると失敗します。
たとえば、定時後にも打ち合わせや顧客対応が慣例的に行われており、長時間労働をする人が評価されるといった会社は、育児だけではなく、介護や病気などの事情で同様に長時間労働ができなくなった人にとって、居心地の良い職場と言えるでしょうか?
このような職場では、育児休業から復帰して短時間勤務などで継続勤務している社員がいたとしても、以下のように感じている可能性はないでしょうか?
- 「周囲の人たちの働き方に合わせられなくて申し訳ない」と肩身が狭い思いをする
- 「労働時間が少なく、残業もできないことから任せられる仕事の幅が狭くなった。配慮してくれることは有難いが、その一方で、もう自分は期待をされなくなったのではないか?」という心配や不安を感じる
- 「労働時間だけが評価されて、時間当たりの成果を測らない評価制度であれば、定時で帰れるようにいくら生産性を上げて頑張っても仕方ない」と、働き甲斐をなくす
働き方改革が進んでいない職場では、育児休業をとったり、短時間労働を利用したり、残業しないことは特別扱いとされたり、周囲から迷惑と思われてしまうことがおきています。
○ライフイベントや生活の変化は、誰にでも訪れる
残念ながら、育児で労働時間に制約が出ることで、周りから期待されなくなった女性社員がいるような職場では、同時に以下のようなことがおきる可能性があります。
- 親の介護で今まで通り働けなくなった働き盛りの男性社員が「会社の期待通りに働けなくなるから両立は無理だ」「自分には価値がない」とモチベーションが下がったり、離職してしまう
- 男性の育児休業取得が一向に進まない
- 優秀な社員が病気療養との両立を諦めてしまう
昨今は、介護、不妊治療や療養との両立など、育児以外の事情により時間制約がある方々の様々なニーズにも応えられる両立支援策が必要になってきています。
フレックスタイム制や時間単位で取得できる有給休暇、テレワーク制度などは、育児中の社員だけに限らず、柔軟に働き方ができるよう、男女問わず社員全員が活用できるような制度の設計をすることが「誰もが働き続けられる職場づくり」につながります。
同時に制度が絵に描いた餅にならないように、休みが取得できるように業務が属人化しないようにマニュアルを作成したり、チーム内で互いの仕事をカバーできるような仕組みを作るなど、働き方の見直しも必要です。
一人一人の強みや得意を活かした仕事や役割への割り当て
2つ目は「一人一人の強みや得意を活かした仕事や役割への割り当て」です。
男性にはこの仕事や役割が向いている、女性だからこの仕事・・・と性別で仕事や役割を割り当てていないでしょうか?
仕事や役割への向き不向きは、性差より個性による違いと考えるほうがいいと思っています。一人一人の個性をよく見て、能力を発揮できる仕事を割り当てることでそれぞれの得意が活かせると、社員一人一人の自己効力感が高まります。
そうなるこどで、結果的に個人が成長しやすく組織の成果に繋がるのではないでしょうか。
私がリーダー育成を支援している会社の管理職が「若手を育てる時、最近はその人の得意を活かせる業務を優先的に教えていくようにしている。その方が、モチベーションが上がっていると思う。自分自身、部下のことをよく観察するようにもなっている」と伝えてくれたことがあります。
○一人ひとりに対して、最適な仕事を割り当て性別で判断しないことが大切
最初に事例をご紹介した会社は、採用時に業務経験や希望等を丁寧にヒアリングするそうです。
この会社も性別で担当を分けるという発想はなく、前職等の経験や得意なことから、力を発揮できそうな業務を最初に担当してもらい、自信を積み重ねながら新しいことを段々と与えていっているそうです。
現在、一般行動事業主計画の見直しや新たな取り組みをしている最中という会社も多いことと思います。
せっかくのいい機会ですので、女性だけでなく「皆が活躍できるには?」という視点を入れてみてはいかがでしょうか?
この記事のまとめ
- 女性活躍を考えることは、社員全員の働き方を良くするきっかけになる
- さまざまな制度を柔軟に取り入れることで、柔軟な働き方の実現につながる
- 性別で仕事や担当を割り振らない、それぞれの経験や特技を活かす